気候変動予測の高解像度化と問題点

温暖化予測に用いられる全球気候モデルは、洗練され精巧に作られているものの計算機資源の制約から空間分解能が極めて低く、地域レベルの気候変化の再現が困難です。局地地形に大きく影響される降水イベントによる洪水のリスク評価や水資源量予測評価等には全球気候モデルの高解像度化が必要とされています。現在、「ダウンスケーリング」と呼ばれるモデル出力値を高解像度化する手法が開発されています。ダウンスケーリングは大きく分けて2種類あり、一つは「力学的ダウンスケーリング」と呼ばれている手法で、対象領域の一部を高解像度化した数値モデルを全球気候モデル出力値に適用して計算を実施します。数値モデルは物理に基づいているため、全球気候モデルと整合しており、結果の解釈が比較的容易である反面、(領域の一部であっても)数値モデルの高解像度化により計算コストが膨大になります(例えば、100kmから10kmへのダウンスケーリングの場合、約1000倍の計算量を必要とします)。もう一つは「経験的ダウンスケーリング」と呼ばれるもので、観測データ(もしくは再解析データ)と全球気候モデルによるシミュレーションデータの統計値の関係性からダウンスケーリングを行う方法で、全球気候モデルで問題となるバイアスを補正することも可能です。経験的ダウンスケーリングは統計的手法および機械学習手法を包括しており、最近のAI技術の発展から高精度に推定を行うことが可能になっています。しかし、数値モデルシミュレーションとは異なり、これらは基本的にデータ駆動型手法であり、本当に将来の気候を推定できるのか、極端現象を推定する能力があるのか、よく分かっていません。

Rampal, Neelesh, et al. “Enhancing Regional Climate Downscaling Through Advances in Machine Learning.” Artificial Intelligence for the Earth Systems (2024).

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