RCM emulatorでは、力学的ダウンスケーリングで用いられるRCMをエミュレートするとこを目的としています。比較的単純な統計アルゴリズムとMLアルゴリズムを使用したいくつかの研究では、RCMを効果的にエミュレートし、学習データの分布外の将来の気候予測を再現する能力があることを示しています。 これらの研究は、複雑さが必ずしも有効性の前提条件ではなく、これらの方法の解釈可能性と柔軟性が、より複雑な代替方法を上回る場合があることを強調しています。 最も重要なことは、これらの実験は、より高度なアルゴリズムを評価するためのベンチマークを提供するだけでなく、通常より多くの計算リソースを必要とする深層学習アルゴリズムの効率を向上させる可能性を示しています。最近、RCM エミュレーションにコンピュータービジョンアルゴリズム(コンピュータが画像や動画を理解し処理を自動化するアルゴリズム)を使用する移行が行われています。 これらには、CNNやU-Netなどの CNN ベースのアーキテクチャやGANおよび最近の拡散モデルが含まれます。地表付近の温度、降水量、蒸発散量など、さまざまな変数がエミュレートされています。観測を使用して直接将来を評価することは実現できませんが、将来と過去の両方の気候にアクセスできる観測の代わりに、GCM/RCM シミュレーションを利用して分布外テストや実験を実施することは可能です。 このような実験は、観測データに基づいてトレーニングされたダウンスケーリング アルゴリズムにおける潜在的な問題の検出に役立つ疑似現実実験として知られています。これらの実験の大部分は従来の統計的アプローチを使用して実行されますが、コンピュータービジョンアルゴリズムに焦点を当てたものはほんのわずかです。特定の疑似現実シミュレーションを使用すると、さまざまな問題を調査するためにさまざまな理想化された実験を実行できます。「完全モデル」または「真実としてのモデル」としても知られるこのような擬似現実実験の例には、「擬似観測された」予測量と擬似空間の RCM/GCM から導出された予測子を使用した定常性テストまたは領域適応実験が含まれます。 これらの実験の実現可能性は、トレーニング用の幅広いシミュレーションが利用できるかどうかに依存しますが、一部の地域、特にRCM シミュレーションではこれが不可能な場合があることに注意してください。
コメント:RCM emulatorの大きな利点の一つは、物理に基づいた将来気候のダウンスケーリングを計算コストの高いRCMに代わって高速で実行できることです。経験的手法では、トレーニングで使用したデータ分布の範囲外(例えば将来気候の気温など)については、現在気候分布を前提とした外挿に依存しており、推定結果が適切かどうか判断することが大変難しいです。それに対して、RCM emulatorでは将来予測値に一定の合理性があります。一方で、本論文のFigure1に示されているように、RCM での解像度や物理過程により、全球気候モデル(GCM)と異なる降水分布が形成されることもあり、これらの違いを機械学習で適切に認識し推定できるのか十分に検証を行う必要があります。また、RCM の降水過程などの物理プロセスを変更することにより、それぞれで降水分布が大きく異なるケースもあります。特定のRCM/GCM ペア、特定の物理ブロセスのみで作動するエミュレータになることも想定されます。基本的に、全球気候モデルと同様にRCMもバイアスがあり、気候影響評価にそのまま利用することが困難になる場合も考えられます。また、解像度が十分でない場合は強雨を過小評価することが示されています。そのため、何らかのバイアス補正法を組み込む必要があるかもしれません。バイアス補正に観測値を取り入れるとエミュレータの利点が失われるため、超高解像度RCMの出力値を用いる方法も考えられますが、計算コストが膨大になることが懸念されます。しかし、RCM の様々な問題点を承知の上でRCM emulatorを使用する(例えば大量の全球気候モデルアンサンブルシミュレーションのダウンスケーリングを実施する)場合に、極めて高いパフォーマンスを発揮します。