大気のカオス的な振る舞いによって、初期条件のわずかな違いで予測の誤差が拡大することが知られています。数値モデルでは観測データの誤差や数値モデルの不完全さにより誤差が生じるため、予報結果に誤差が生じることを避けることができません。予測誤差の拡大は、台風中心の予報円が12時間後、24時間後、48時間後と予報時間が長くなるにつれ大きくなるのをイメージすると分かりやすいかもしれません。誤差が拡大する特徴を把握するために、異なる初期条件を用いた複数の数値予報(アンサンブル予報)が行われます。アンサンブル予報により平均やばらつきの程度といった統計的な情報を用いて気象現象の発生を確率的に評価できます。アンサンブル予報により、各予報値が同じような状態を予測していれば、その状態が発生する可能性が高いと判断でき、逆にぞれぞれがバラバラの状態を予測していれば、予測精度が低い(予測が困難)と判断できます。いずれにせよ、一つの予報結果を信じるよりも、複数の結果から起こりうる事態を考慮して柔軟に対策を立てた方が、結果的に被害を低減できます。集中豪雨など激しい気象現象は時間的・空間的規模が小さく、地形との相互作用や積雲対流システム同士の相互作用により局地的にカオス的な振る舞いが顕著になります。例えば、梅雨前線帯の形成位置、台風の経路、冬季の南岸低気圧の経路、関東平野などで観測される夕立(特に降水量の多い場合を局地的大雨、マスメディアではゲリラ豪雨とも呼ばれる)など深刻な災害を引き起こすような現象も局地的に見れば大きな予測誤差を生じます。そのような現象に対応するために、メソアンサンブル予報が行われています。メソアンサンブルでは、予報時間39時間、アンサンブルメンバー数21、週間アンサンブルでは、予報時間264時間(216時間)、アンサンブルメンバー数51(27)で実施されてます。アンサンブルメンバー数を増やしても予報精度が大きく向上しないことが分かっています。予測時間が長くなると誤差が拡大し日々の天気状況を予測することが困難になります。そのため1ヶ月以上の長期予報では、長期的特性(平年値からの偏差)を予報します。長期予報でもアンサンブル予報が行われますが、3ヶ月予報以上ではアンサンブル予報に加えて、海水温や陸面の土壌水分、温度、積雪などの影響を加味した統計的手法による予測が実施されます。
ECMWF(ヨーロッパ中期予報センター)では、機械学習だけでアンサンブル予報を行うことを計画しています。数値モデルによるアンサンブル予報から得られた特性を機械学習でパターン認識させるのではないかと推測されます。もし実現すれば、計算負荷を低減してより短時間での予報精度が向上し、迅速かつ的確に対応することにより防災、被害の低減が期待されます。また、カオスの振る舞いについての理解も深まるかもしれません。
https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/kisetsu_riyou/method/index.html
https://www.jma.go.jp/jma/kishou/books/nwpkaisetu/latest/1_5.pdf
https://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/whitep/1-3-8.html
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https://www.jma.go.jp/jma/press/0212/19a/ensemble.pdf